佐藤浩市は、三上を演じる上での演技的な山場をいくつかイメージして撮影に臨んだ。その山場の一つが前編のクライマックスとなる、三上が記者たちに広報の発表事案は原則実名にすると宣言し、さらにこれまで加害者が匿名で発表されていた交通事故で死亡した被害者・銘川が辿ってきた人生を語る場面。脚本にして約9ページ、ほぼ三上の一人語りとなる長いシーンである。“ここは実名発表に関することと銘川さんのことを語る2つの話に分かれていて、さらに完成した映像では銘川さんの人生を描いた回想シーンも入る。本来なら分けて撮ったほうが楽なはずなんです。実名発表と交通事故被害者の2つの話の中で、感情のアップダウンがある芝居だったものですから、全体が連鎖してある波を作っていく芝居をやらせてもらうために、あえて一気にやらせてくださいと監督にお願いしました”と佐藤は言う。通しで演技をすると約9分の芝居となるこの場面は、3つのカメラで撮影された。
そうして撮影されたシーンは、三上が記者たちに自身のクビを賭けて実名発表に踏み切る覚悟を表明した後に、孤独に死んだ老人・銘川の人生を語り、やがて三上の中でそれが未解決の「ロクヨン」被害者家族・雨宮とリンクして、思わず涙がこみ上げてくるところまで。これだけでも充分感動的な芝居なのだが、佐藤と監督は2つの違和感を覚えた。1つは記者たちが、あまりにも静かに三上の話を聞きすぎていること。もう1つは雨宮のことを語りだして涙を出すと、この場での主題である銘川のことよりも雨宮への想いが強まってしまうことだった。そこで記者の1人が話を聞かずに外へ出て行こうとするのを三上が止めるアクションを途中で入れ、涙は堪えることに変更。そしてまた9分の芝居が始まる。この本番は通して3回やってOKが出た。休憩をはさんで同一シーンを、今度は記者たちにカメラを向けて撮影することになった。休憩後、やはり3つのカメラで撮られた記者向けのカットは本番4回でOKが出た。思わずその場にいた俳優全員が拍手をしだす。一つの大きな山を乗り越えた充実感が、そこにはあった。