佐藤浩市と雨宮役の永瀬正敏は、かつて共演予定だった映画がクランクイン直前に流れたため、2人はこれが初共演。娘が家出して、常にそのことが心のどこかに引っかかっている三上と、14年前に起きた誘拐事件で1人娘を殺された雨宮。娘の父親として、どこか共通する喪失感を背負った2人のほんの数回の邂逅が、映画の中では忘れられない場面になっている。雨宮が経営する漬物工場のロケ場所になったのは、埼玉県・深谷市にある実際の漬物工場。ここを看板や別棟に建つ雨宮の自宅の外観などを作り替えて撮影された。雨宮の自宅の前には、14年前に亡くなった娘が遊んでいたであろう自転車や遊具が今もそのまま残されていて、ここだけ昭和64年から時間が止まったようだ。
警察庁長官が雨宮宅を訪れることを了解してもらうため、三上は何度か彼の家を訪れるのだが、最初は長官の訪問を断り、次には了承し、最後は長官が来られなくなったことを伝えに来た三上に優しく対応する雨宮は、謎の多いキャラクターだ。そのため永瀬正敏はあまり感情を表に出しすぎない演技をしているのだが、クランクイン直後に撮られた14年前の娘を救おうと必死になっていた行動的な彼と比べると、どこか魂が抜けたようにも見える。これは皺を刻んだ特殊メイクを施して年齢を重ねた感じを出していることもあるが、長年哀しみを抱えて生きてきた男の雰囲気が、自然に表現されている。その雨宮が3度目の訪問の時、三上が娘のことで悩みを抱えていると感じて彼をベンチに座らせ、“悪いことばかりじゃありませんよ。きっと、いいこともあります”と話し出すところから、三上は警察官の顔を捨て、私人として雨宮と会話をする。“脚本で読んでいた時よりも、父親という部分でのシンパシーで雨宮と接する感じが、やりながら大きくなっていきました。雨宮も三上に対して警察官という部分を飛び越えた存在として何らかのシンパシーを感じてくれていたと思うし、永瀬君はその辺を四の五の言わずに、自分の役と芝居を理解してキッチリと表現してくれましたから、面白いシーンになったと思います”と佐藤は言う。多くを語らずとも通い合う、娘の父親同士のシンパシー。そこには互いを俳優として認め合った、佐藤浩市と永瀬正敏の気持ちの繋がりも重なっているように感じられた。