この映画の中で佐藤浩市は、様々な共演者と1対1の演技対決をしている。佐藤は“三浦友和さんを始めとするベテランの方々や、永瀬君、緒形君といった昔から知っているけれどもこれまで共演したことのなかった人、あとは綾野君、瑛太君のような若い人たち。いろんな俳優さんと絡んだときの僕自身と、三上として広報室の中での自分と、警察という組織の中での自分。それぞれの場合で対応の仕方に変化があって、自分の中でバラエティに富んだ芝居ができました”と語っている。その1人が捜査一課の刑事時代に三上の上司だった、松岡勝俊役の三浦友和との場面だろう。広報室へ異動になってから三上は捜査一課から目の敵にされているが、松岡だけは彼に多少なりとも心を開いてくれる存在。その彼を頼って、「ロクヨン」に酷似した誘拐事件の情報を得るため、三上はトイレの中で張り込む。そして2人の駆け引きが始まるのだが、このトイレの場面は、東宝スタジオ内に組まれたセットの中で撮影された。誘拐された被害者家族の実名を教えてほしいと迫る三上。県警で叩き上げの刑事である松岡は、今は広報官として本庁から来たキャリア組の警務部長の部下である三上に“魂を売ったつもりはない”と言い放つ。しかし自分は広報官としての職務を全うしに来たのであって、もはや刑事に戻る気はないと決意を言う三上に対し、“本心でそう言っているのか”と問いかける松岡。三上の中に刑事への執着心が残っているかどうかを確かめるような松岡の鋭い目が、圧力となって三上へと伸し掛かる。その三浦友和の厳しさを、正面から受け止める佐藤浩市。まさに俳優同士の火花散る一瞬だった。ここで三上の本気を感じた松岡は被害者の実名を告げ、娘が家出してから精神が不安定になった三上の妻の心配をしてみせる。警察組織の中での刑事としての顔と、良き先輩としての顔。その2つを短いやり取りの中で表現した三浦友和と、彼の心の揺れを見事に受け止めた佐藤浩市。ここで垣間見えた2人の揺れ動く微妙な関係性は、後編のクライマックスとなる誘拐事件の捜査指揮車の中でも描かれる。そこで松岡は三上にどんな優しい顔と厳しい顔を見せるのか。ここにも注目していただきたい。